カイロ研究かくも難し

タメだ

 Meadeの研究(*1)(*2)、Cherkinの研究(*3)を読み返してみた。やっぱりこれじゃダメだ、と思った。
 前者はイギリス、後者はアメリカにおける研究であり、いずれもカイロプラクティックの臨床的有効性を検証したものである。方法は似たようなもので、数十人から数百人の患者さんを、@カイロプラクティック治療を受けたグループ、Aその他の治療(理学療法など)を受けたグループ、B何の治療も受けなかったグループに分け、治療効果がどれほどであったかを比較する、というようなものである。
 治療効果の高低は、それぞれのグループに属する患者さんへの質問状から判断する。質問状は、すべての患者さんに数度にわたって発送される。治療を受け始めてから1〜4週で1通、同じく数か月〜数年でもう1通という具合いで、短期的な効果と長期的な効果とを分けて分析しようというわけである。
 Meadeはカイロプラクティック治療を受けたグループが、短期的にも長期的にも、理学寮法を受けたグループよりも治療効果が高かったと断じた。かたやCherkinは、@カイロプラクティック、Aマッケンジー・メソッドを中心とする体操療法、B急性腰痛の予防についての本を読むのみで何の治療も受けない、の三つのグループ間で、短期・長期いずれとも治療効果に有意な差は出なかったとした。
 筆者はMeadeの研究結果を聞いてうれしいとも、Cherkinのそれを開いて悲しいともこいずれもサラサラ思わない。なぜかといえば、いずれの研究においてもカイロプラクティック治療を受けた患者さんたちは「複数の」「開業後]]年以上経った」「カイロプラクティックの」クリニックに分散して通ったのであり、それぞれのクリニックで具体的にどのような治療が行われたのかについては、ほぼ完全なブラック・ボックスになっているからである。
 要するにこれらは病理や生理ではなくて、疫学的な研究なわけだ。どうして効くの効かないのということは置いておき、とりあえず効くのか効かないのか、何が効くのか、などということについて、統計として把握しておきましょうよということである。
 しかし、それにしてもである。カイロプラクティックってったっていろいろあるのだ。

あれもこれもカイロです

 とりあえず筆者傘下のクリニックのどれを思い浮かべてみたって、歩いていける距離内に何軒も「カイロプラクティック」はある。わが家に最も近いクリニックの上の階(ウチが1階だから2階)には『ソフト・カイロプラクティック』があり、そこから歩いて3分ほどの商店街の入り口近くには『ドイツ式カイロプラクティック』というのがある。さらにその商店街の奥にはマンションの2階の窓に『SOT療法』とカッティング・シートを貼っているところが、また5分ほど歩いて住宅街に入ると『MKカイロプラクティック』とストレートな看板を1階に掲げる民家がある。「MK」は同家の表札と同一である。
 看板文句が同じなんだから内容も似たようなものでしょ、などと、もし誰かに言われたとしたなら、オーナーとしては青筋たでたフリをしてでも反論しなくてはならないところである。
 いや、イギリスやアメリカの事情は日本より進んでいるでしょう。アッチの方が法的に整備されていて、当然、その業務内容も定型化されているのではないですか、などと善意の同業者は言ってくれる。が、それは違うことを筆者は知っているのだ。
 AK、SOT、ガンステッド、などなど、これら全部、カイロプラクティックが全州で公認されているアメリカの産である。こういった、お互い似ても似つかない様々なテクニックが、本場といわれるアメリカのカイロプラクターたちの間でも流通している。カイロはカイロでも、流派が違えば施術内容もまるっきり違うことは、読者の大部分はご存じであろう。
 ガンステッドをやる先生ならレントゲンを継続的に撮り、それに様々に「線引き」をして、治療の効果を量るであろう。かたやディバーシファイドをたたき込まれた先生にとっては、レントゲン写真は骨折などの禁忌の鑑別以上の意味は持たない。
 AKをやる先生なら筋力テストの結果をもってカイロプラクテイック操作の標的を定め、治療後にはビタミン剤の経口摂取などを患者さんに勧めるだろう。かたやトリガー・ポイントをやる先生は、筋力ならぬ筋の硬さを触診で確かめて操作の標的を決め、体操は処方してもビタミンの話にはあまり時間を割かないであろう。
 コックス・テクニックが好きな先生なら腰痛患者さんには腰椎の屈曲を、マッケンジー好きな先生なら同じ患者さんに腰椎の伸展を勧めるだろう(!)。
 こういう状況をそのままにしておいて、「カイロ受療グループはカイロのクリニックへ、物療受療グループは物療のクリニックヘ行きましたとさ」、それで効果が高いの低いのと言われたって、そりゃ困ります、というものだ。
 Meadeの論文は正規の医学雑誌に掲載されたものとして、その発表以来、カイロプラクティックの有効性を説く際には非常によく引用されるものである。その論文にしてこのていたらく(失礼は承知である)なのであるから、最近の筆者がどうも学会誌というものから遠のきがちになることについても、誰も一概にはとがめ立てできまい。
 などというわけで、『米国のカイロ最前線』というテーマでの連載にやや困難を感じ始めてしまった筆者のわがままで、当コラムも今回が最終回である。しかし、長い言い訳でしたねぇ。

明日はドッチだ!そりゃコッチだ

 今回は、最終回にちなんで、今までの記事の総括的な内容でとの編集部のご意向であった。そのつもりで書き始めたのではあったが、ハナからグチっぽくなってしまった。
 「ズレた背骨を元に戻す」的なカイロプラクティックの治療モデルはすでに時代遅れ、かつ非科学的、かつ退場必至である旨、たびたび言及してきたつもりである。幸いにして、見当違いの反論の投稿などがきて、その対応で時間を無駄にされるようなこともなかった。発行部数の限られた刊行物の利点だ(うわー、これもご免なさい)。
 よって、ズレをベースにした「テクニック」体系は、いかなるものであれ、すべて同断である。このテーマについても、個別にいくつか触れることができた。
 なら、お次はモーション・パルぺーションでしょ。そうですよね。やっぱりこれからはMP!
 と無邪気に同意を求めておいでになる先生についても、残念ながら、筆者は優しく肩を抱き寄せるというわけにはいかないのである。このことについては、3年前に東京で開かれたカイロプラクティック世界大会でのデビッド・キャシディー博士(カナダのサスカチュワン大学教授。カナディアン・メモリアル大出D.C.)との対談が光っていると思う(このコラムでは扱わなかったが)。「特異性にこだわり続ける限りMPにも未来はない」という氏のコメントに、筆者は大いに心を強くしたものだった。
 ではその次、この先のカイロプラクティックには何があるのか? だいたい何かあるのか、それとも何にもないのか? このテーマについても、いくつか筆者なりの試行錯誤の跡をお伝えした。体操療法としてのマッケンジー・セラピーへの取り組みはその一つであった。キャシディー博士は、認知療法cognitive therapyの重要性を説いておられた。体操や生活習慣の改善、緊急の際に自分でできる手当の方法など、そういったものの教育こそ凡百の施術に勝る、というのが氏の持論である(と筆者は理解したんだけど)。
 トリガー・ポイントという考え方は従来のカイロプラクティックにはなかったものであるが、これからもより広く使われてゆく「テクニック」であると、これについてはほぼ確信している。
 などなど、おおっ、あるじゃないですか、たくさん! 何もズレにこだわらなくったって、やれること、いくらでもあります、カイロプラクティックには。この点、法律で縛られて業務範囲を特定されたアッチの人たちより、日出ずる国のカイロプラクターたちははるかに幸せであると、やっぱり筆者は思っています。

 さて、最後の最後までまとまりのない、書きなぐりに近い文章におつきあいくださった『マニピュレーション』編集部の方々に心より感謝の意を表しまして、とりあえずサヨナラさせていただきます。
(了)

参考文献
*1. Meade TW, Dyer S, Browne W, Townsend J, Frank AO. Low back pain of mechanical origin: randomized comparison of chiropractic and hospital outpatient treatment. Br Med J 1990;300:1431-7.
*2. Meade TW, Dyer S, Br6wne W, Frank AO.Randomized comparison of chiropractic and hospital outpatient treatment for low back pain: results from extended follow-up. Br Med J 1990;300:1431-7.
*3. Cherkin DC, Deyo RA, Battie M, Street J, Barlow W. A comparison of physical therapy, chiropractic manipulation, and provision of a educational booklet for the treatment of patients with low back pain. N Engl Med 1998;339:1021-9.